奄美大島における生態系保全のためのノネコ管理計画(以下:管理計画)について様々なデマが飛び交うワンダーワールドと化しておりますが、最近読んだ記事もまた不思議なことが書いてあったので記事の勘違い部分を抜粋しながら考えていこうと思います。
記事自体は勘違いをまき散らしつつも、猫に対しては恐らく愛情をもって頑張っている団体さんではあるのでここにURLは載せません。
記事にあった「勘違いされてるのかな?」というお話はこちら。
- 10年かけて3000匹のノネコを捕獲する
- アマミノクロウサギ等固有種の絶滅を防ぐという理由
- 毎月30匹捕獲、10年かけて殺されて人間の計画の犠牲になる
- 罠にかかったマングースの首を捻り頭をハンマーで叩き割る
- 安易に捕獲し殺処分という安直な方法でノネコを減らす
とりあえずこの記事では気になった5点についてお話しします。
勘違いされがちなノネコ管理計画
奄美大島における生態系保全のためのノネコ管理計画(https://www.env.go.jp/nature/kisyo/amami_nonekomp.pdf)はどうしてだかとても勘違いされている計画です。
計画書に書かれていない数字やあれこれが日々叫ばれ続けているので、今のところ「間違った認識の主張・デマも時が解決してくれる」ということもなさそうです。
でもまあ人は忘れる生き物なので、管理計画に賛成の人も反対の人も時々読み直しておさらいしておくと良いかも。
では不思議な勘違い5点についてお話していきましょう。
勘違い①10年かけて3000匹のノネコを捕獲する
これは再三言ってるんですけど、10年かけて3000匹のノネコを捕獲する計画がどこかにあるとしても奄美大島にはないです。
この勘違いが書かれていた記事にはハッキリと”奄美大島”とありましたが、私の住んでいる奄美大島にはこういった10年かけて3000匹のノネコを捕獲する計画はないです。
まず「奄美大島における生態系保全のためのノネコ管理計画」を読むとわかるのですが、3000の数字すら出てきません。
ノネコの推定数が600頭から1200頭ということは書かれておりますが↓
奄美大島の森林内に広くノネコが分布することが確認され、その頭数は約 600~1,200 頭と推定された(環境省那覇自然環境事務所 2015)
3000という数字はどこにもありませんので、管理計画を読んだ人ならここあたりで「あれ?」と思うのではないでしょうか。
管理計画の初年度は月30匹の捕獲目標がありました
ではなぜ3000匹捕獲などという言葉が出てくるのかというと、こちらは初年度(2018年)の際に月30匹の捕獲を計画しているとあったからと推測しております↓
2018年度は月間30匹、計270匹の捕獲を計画している。
2020年の南日本新聞の記事にはこんなことも↓
事業開始当初は全域で捕獲した場合の目標数を月30匹、年300~360匹としていたが、工程表に具体的な捕獲数は盛り込まなかった。
(こちらの記事は残念ながら消えてしまっています)
事業開始当初、年300~360匹の捕獲目標があったことが伺える文面、この300匹に10年をかけたら3000匹になりますから、それで3000匹と勘違いされたのでしょう。
2018年の記事もありました↓
環境省の番匠克二・希少種保全推進室長は「年300匹以上捕獲する必要があるが、人慣れしていないので多数のもらい手が現れるという希望は持ちにくい」という。
こういった記事を見て「300匹?!なら10年かけて3000匹なのね!」となってしまうのは仕方ないことなのかもしれません。
しかし管理計画には3000の文字も捕獲目標もない
しかしながら管理計画には3000の文字もなければ、実は捕獲目標も定めていないのです。
捕獲目標を定めているかどうかは実際に問い合わせしまして聞きましたので間違いありませんし、そもそも目標頭数があれば計画書や奄美市などのサイトに記載があるのではないでしょうか。
少し落ち着いてほしいと思います。
とりあえず管理計画書を読んでみるのはいかがでしょう。
勘違い②アマミノクロウサギ等固有種の絶滅を防ぐという理由
よく勘違いされていますが、奄美大島における生態系保全のためのノネコ管理計画は固有種の絶滅を防ぐ計画ではありません。
惜しいですがそうではないのです。
ではどんな計画なのか?こちらは表紙を読むだけで解決する勘違いだったりします。
とりあえず表紙見てください↓
見たら表紙だけでも声に出して読んでみてください。
読んでみた方はもうお分かりかと思いますが、管理計画は「奄美大島における生態系保全のため」にする計画なのです。
固有種絶滅防止計画ではありません。
生態系保全のための計画ですので、つまり固有種だけ守れたら良いよというものでもないのですよね、実はね。
管理計画書を読むと確かに希少種に焦点があてられているような印象を持ちますが、実際のところは生態系を保全なので固有種以外も蔑ろにはできません。
何故希少種に焦点が当てられているような文になるかというと、アマミノクロウサギは奄美大島と徳之島にしかいないし、アマミトゲネズミは奄美大島にしかいないし、ケナガネズミは奄美大島と徳之島・沖縄北部にしかいないなど、限定的な場所に生息する限定的な生き物は後がないからです。
ここで絶滅してしまうと後がないから、だから焦点が当てられやすいという面があるんですよね。
しかしながら希少種いればそれでOK!というわけにも全然ならないので、ここは正しく認識しておきましょう。
今一度……固有種絶滅防止計画ではありませんよ。
※なんで絶滅しちゃダメなんやみたいな話はだるい解説するには難しいし文字数いくらあっても足りないので自分で「生態系サービス」「生物多様性」のキーワードで調べてくれえ。
勘違い③毎月30匹捕獲、10年かけて殺されて人間の計画の犠牲になる
毎月30匹捕獲というのも上でお話しした通りなのではぶこうかな。
現在は捕獲目標ありません。
10年かけて殺すというのでもなく、管理計画には譲渡の道もありますのでノネコに幸せになってほしい人がノネコを引き取れる仕組み作りもばっちりです。
→「奄美大島における生態系保全のため捕獲したノネコ譲渡希望者の募集について」
確かに引き取り手がいなければ安楽殺は免れませんが、安楽殺されない解決の道はすでに示されているのですからこれを活用してください。
勘違い④罠にかかったマングースの首を捻り頭をハンマーで叩き割る
こちらはひどい勘違いですね!「いやいやそりゃないよ」と笑ってしまいましたが笑い事ではないですね。
奄美野生生物保護センターに実際どうなのか聞いてみたところ、罠にかかったマングースの首を捻って頭をハンマーで叩き割るなんていう残酷なやり方は敢えて選ぶこともないとのことでした。
そもそもマングース用の罠は入ったら死ぬ罠なので、あえて人間が手を出すものでもないのですよね。
(ノネコの罠は捕獲罠ですので死ぬ罠ではないです。)
そしてこの罠は捕獲罠と違い即殺の罠、見回りも1か月~1か月半に1回、長くて2か月に1回の見回りになるのでもしマングースがかかっていても既に骨になっているとのことでした。
この状態のマングースの首を捻ることもありませんし、ハンマーで叩き割ることもありません。
残酷な想像をすることは私もありますが、落ち着いてほしいですね。
あ、もちろんノネコの捕獲罠について、罠稼働時は毎日見回りがありますよ。
勘違い⑤安易に捕獲し殺処分という安直な方法でノネコを減らす
安易という言葉、たびたび見ますがまず安易という言葉のおさらいしましょうか。
あん‐い【安易】 の解説
[名・形動]1 たやすいこと。わけなくできること。また、そのさま。「安易な問題」
2 気楽であること。いいかげんなこと。また、そのさま。「人生を安易に考える」
引用:goo辞書
どちらに当てはめて言ってるのかしら?まあどちらでもいいんですけど、個人的な意見を述べますと奄美大島における生態系保全のためのノネコ管理計画は安易なものでは決してありません。
そもそも管理計画は10年ほど前から話し合われできた計画なので全然安易じゃないですし、そもそも管理計画書読めば安易でないことがすぐにわかるんですよね。
管理計画書にはこのような記載があります↓
1.はじめに
奄美大島には、アマミノクロウサギやアマミヤマシギをはじめ、多くの固有種や絶滅危惧種を含む貴重な在来種が生息・生育している。奄美大島では、1979 年に持ち込まれたマングースが増加して在来種を捕食し、在来生態系へ大きな影響を及ぼした。このため環境省は、2000 年から本格的なマングース防除事業に乗り出し、現在はマングースの個体数の減少・分布域の縮小が進み、在来種が回復しつつある(Fukasawa et al 2013, Watari et al 2013)。
一方で近年、森林内においてノネコの目撃頻度が増加し、ノネコの森林内での繁殖や希少種の捕殺も確認されるなど、ノネコによる希少種への影響防止が新たな課題となっている。ネコは、国際自然保護連合(IUCN)の種の保存委員会が外来種の脅威について注意喚起する
ために作成した「世界の侵略的外来種ワースト 100(100 of the world’s worst invasivealien species)」にも選ばれ、世界的にも特に生態系等被害が深刻な種として位置づけられている。また、「我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト(生態系被害
防止外来種リスト)(環境省、農林水産省 2014 )」においても、ノネコは総合的に対策が必要な外来種、かつ特に緊急性が高く各主体がそれぞれの役割において積極的に防除を行う必要がある緊急対策外来種に分類されている。「外来種被害防止行動計画(環境省、農林水産省、国土交通省 2015)」では、侵略的外来種の侵入・定着が確認された場合には被害が顕在化する前に対応する方が、被害が顕在化してから対応するのに比べはるかに効果的であり、生態系等に与える影響も少なくてすみ、さらには駆除等が必要な個体の数も最小限に抑えることができることから、早期に迅速に防除を図ることが重要であるとしている。このことも踏まえ、関係機関が連携して迅速にノネコの対策を進めるべく、本管理計画を策定するものである。
管理計画書の「1.はじめに」を読めばもう、すぐわかっちゃうんですよ安易じゃないこと。
ただこちら文字がつめつめキツキツで読みたくない気持ちもわからないでもないので簡単に言うと
「猫は世界的に対策が必要な生き物、被害が目に見える前に対策しよう。早めにやると生態系への影響や駆除数も最小限に抑えられるし。」
ってことです。
被害が明らかに目に見えるようになってからのほうがそりゃ納得する人も多いでしょうけども、しかしそれこそ猫にしわ寄せがいく形にもなってしまいかねませんから、早め早めに頑張る方が私たちにとっても良くないですかね?
猫のTNRを頑張っている人も「もっと早めに、数が少ないうちに対策をとれていたならば……」と思うことはないのでしょうか?
管理計画は決して安易になんとなく捕獲しているような計画ではありません。
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安易な方法でノネコを減らしているかという点
生きたまま捕獲して譲渡もされているあたりでもう安易ではありません。
罠稼働している日は毎日見回りをしていますし、街中や集落の猫はTNRしてノネコ発生源対策も取られております。
奄美では猫条例も制定されて、猫の問題に大きく取り組んでいるんですね。
もし安易な方法でノネコを減らしたいのであればそれこそ捕獲せずに死が待つやり方となるのではないでしょうか。
即死の罠が安易とも私は思いませんが、しかし実際ノネコ以外の生き物は死確定の罠や駆除がとられておりますので、私なんかは「猫めっちゃ配慮されてるじゃん」と思うわけですが、こういった配慮は感じ取ってもらえないのでしょうかね。
自分が大切にしたい生物をみんなに大切にしてほしいという気持ちはわからなくもないですが、しかし「自分が大切にしたい生物をみんなが大切にする」ことは当たり前ではありません。
その前提をも踏まえ、奄美大島でノネコは十分配慮された位置にあると私は思います。
「安易な殺処分しないで!」と言いながら譲渡の道の提示がない…何故なのか
署名サイトなどの管理計画反対記事を見てみるととりあえず「安易な殺処分しないで」という主張ですが、安楽殺を回避できる道「譲渡」については触れられていないんですよね。
管理計画を中止しろとの呼びかけばかり。
管理計画を中止にしても猫が過酷な山に置いてけぼりになるだけですので、本当にあなたたちそれでいいのですか?と不思議な気持ちになります。
確かに譲渡されなければ安楽殺です。
これは間違いありませんし管理計画書にも書いてありますが、しかし安楽殺は譲渡で回避できます。
しかし署名サイトには譲渡できることは書かれておりませんので、署名した人が譲渡の道を知らないのも無理はないのかもしれません。
譲渡の道ございますので、こちら広まりますように。